慶應義塾

令和初の天覧試合と101年目のリーグ優勝

公開日:2026.07.08

執筆者プロフィール

  • 加藤 貴昭(かとう たかあき)

    体育会野球部長環境情報学部 教授

    加藤 貴昭(かとう たかあき)

    体育会野球部長環境情報学部 教授

昨年、東京六大学野球連盟は創設100周年を迎えたが、新たな100年の第一歩となる2026年春季リーグ戦で、野球部は5季ぶり41回目のリーグ優勝を果たし、天皇杯を奪還した。3季連続5位という逆境を跳ね返し、5校全てから勝ち点を奪う「完全優勝」となった。さらに早慶戦第二回戦は、天皇陛下が愛子内親王殿下を伴い神宮球場へご行幸され、32年ぶり令和初となる「天覧試合」という無上の栄誉に浴した。その喜びと激闘の軌跡を塾員の皆様と共有したい。

今季のリーグ戦は一戦一戦が薄氷を踏む激闘の連続であった。開幕の立教大学戦に2連勝して勢いに乗ると、続く昨秋王者・明治大学戦では第二戦で大敗を喫したものの、第三戦にエース・渡辺和大(商4)が好投し、主軸の適時打で貴重な勝ち点を手にし、大きな自信となった。東大初戦の終盤までの厳しい展開も林(環3)の勝負強い適時打で競り勝ち、連勝。法政大学には初戦を落とし、第二戦もリードを許す苦しい展開から、打線が爆発して逆転勝利を収め、勝ち点を積み上げた。早慶戦は勝ち点を挙げれば優勝、落とせば明治が逆転優勝という決戦の場となった。1回戦、いきなり先頭打者本塁打を浴びたものの、直後に打線が一体となって相手エースを攻め立て一挙6点を奪う猛攻、その後も主将・今津総(環4)のダメ押し打などで初戦を勝ち取った。


早慶戦二回戦は令和初となる天覧試合が実現した。連盟理事として球場入り口でお出迎えした際、陛下から「両校の試合を大変楽しみにしてきました。小学生以来の観戦になります」、愛子様からも「私は初めての観戦となります。楽しみです」と思いがけずお声がけをいただき、この上ない栄誉に胸が震えた。満員の球場は独特の緊張感に包まれたが、選手たちは高い集中力を保っていた。試合は1点を争うシーソーゲームとなり、中盤に丸田(法3)の好走塁などでリードを奪った。最後を締めくくるべく連投のエース・渡辺がマウンドへ送られたが、早稲田の代打、渡辺の高校同期・井櫻選手にまさかの二塁打を浴び、さらに犠飛で同点とされる。渡辺は執念で二死まで漕ぎ着けたが、最後は今季首位打者・徳丸選手に痛烈な一撃を浴び劇的なサヨナラ負けを喫した。まさに夢を見ているかのような時間と空間であった。しかし試合中ベンチで「これが野球」「This is enjoy baseball」の声が響いた通りの試合内容であり、歴史的な一戦を共に演じてくれた早稲田大学に対しては敗戦の悔しさを越えて、素直に深い感謝の念が湧いた。


陛下はご観戦中、学生の生活についても丁寧にご質問されたと聞いている。愛子様は注目選手の個人名を正確に挙げながら、ファインプレー後の展開の妙を語られるなど野球への深い造詣を示され、お二方とも試合を堪能されていたようである。試合後には特別に各大学主将との懇談会が設けられたが、主将の今津によると、陛下は気さくに各大学の戦いぶりを尋ねられたり、始球式の思い出を語られたり、慶應の苦境からの復活劇や試合展開を労ってくださったとのことである。愛子様からはユニフォームの刺繍の意匠にまで質問を及ばされ、翌日へのエールを賜ったということである。最後のお見送り時にも「とても素晴らしい試合でした。楽しく見させていただきました。明日も頑張ってください」と労いのお言葉を重ねていただき、お2人の細やかなお気遣いに、深く恐縮し緊張しながらも、心が温かくなるのを感じた。野球が「ナショナルパスタイム」と称されるその意味を、身を以て理解できたような気がする。


翌日の三回戦、選手たちは前日負け投手となった渡辺のためにも勝とうという強い思いを胸に、運命の試合を迎えた。一歩も譲らない展開の中、6回に小原(環4)の本塁打、横地(法4)の犠飛でリードを奪う。8回裏2死満塁の最大のピンチでは、渡辺の執念の投球が早稲田の4番・寺尾選手を打ち取り、危機を脱した。最終回は安定感抜群の鈴木佳門(経2)が完璧に締めくくり、5季ぶりのリーグ優勝という歓喜の瞬間が訪れた。


振り返ってみると、今季は全10勝中7勝を挙げ最優秀防御率賞に輝いたエース・渡辺の功績が大きく、彼を含む今津、小原、林、そして負傷した中塚(環3)の5名がベストナインに選ばれ総合力の高さを証明した。この復活劇の背景には指導陣の支えがあった。新加入の上田誠コーチは投球技術面のサポートに加え精神的支柱としてベンチを盛り上げ、上田和明コーチは生命線となった高い守備力を基礎から作り上げ優勝に貢献した。選手の要望に応えられる指導環境が整い、堀井監督が大局的な指揮に集中できた意義は極めて大きい。また今年のチームは「泥臭く」「粘り強く」が合言葉でもあった。過去の敗戦を糧に一人ひとりが1点を奪い取る執念を見せ、苦しい局面ほど明るく振る舞う強さがあった。主将の今津は卓越したキャプテンシーを発揮し、捕手の吉開(商4)は相手分析のため連日対策を練った。主力や控えの4年生、下級生部員達の献身、さらにマネージャー、アナリスト、コンディショニングスタッフの表には出ない貢献など、文字通り部員全員の力で勝ち取った栄冠であった。


また優勝決定後には、念願の神宮球場から三田キャンパスまでの盛大な優勝パレードと祝賀会が催された。沿道を埋め尽くす塾生・塾員からの温かい声援を受け、三田の山が歓喜に包まれる様子は慶應義塾が誇る「社中協力」そのものであり、大きな喜びを感じた。日ごろからスタンドで想いを一つにし、寝食を忘れて応援をリードしてくれる應援指導部をはじめ、野球部を支えてくださった関係者の皆様に心より御礼申し上げたい。


6月14日、第75回全日本大学野球選手権記念大会の決勝戦が行われた。野球部は東京六大学代表として全力を尽くしたが、あと一歩及ばず悲願の日本一を摑むことはできなかった。この悔しい敗戦を含め、春のリーグ戦、天覧試合、全国大会に至るすべての経験は間違いなく秋への尊い糧となる。再び塾全体が一つとなり、三田の山で歓喜を分かち合えるよう、野球部は真の目標である全国制覇に向けてさらなる精進を重ねていく決意である。今後とも温かいご声援をよろしくお願い申し上げます。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。